発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.35 自由な発想と発酵で日本とイタリアを結ぶ。
小川航平さんの自家製納豆ラヴィオリ

2026/11/05

Vol.35 自由な発想と発酵で日本とイタリアを結ぶ。小川航平さんの自家製納豆ラヴィオリ
Vol.35 自由な発想と発酵で日本とイタリアを結ぶ。小川航平さんの自家製納豆ラヴィオリ

茨城県出身の料理人、小川航平(おがわこうへい)さんの“推し”発酵食は、幼いころから親しんできた納豆。イチジクの葉で仕込む自家製納豆を、北イタリアの郷土料理「アニョロッティ・デル・プリン」にとり入れるなど、自由な発想で発酵とイタリア料理をかけ合わせています。

平日は公立小学校の給食調理師、週末はポップアップレストランの料理人、そして二児の父。限られた時間のなかでも自分らしい料理を探求し続ける、小川さんならではの発酵料理の世界を伺いました。

塩麹との出合いから始まった、発酵の探求

20歳でイタリアンレストランに就職し、料理人としてのキャリアをスタートさせた小川さん。その2年後、子どもの誕生を機に、給食の調理師へと転身しました。

「ディナー営業のあるレストランで働いていると、どうしても帰宅が遅くなってしまいます。子どもが小さいうちは、家庭に軸足を置いた働き方をしたいという思いから、給食の仕事を選びました」

給食の現場には、小川さんのように飲食店から転身した料理人も少なくないそう。小川さんの周囲にも、フレンチ出身の料理人や元パティシエなど、さまざまな経歴を持つ調理師が働いているといいます。

給食の仕事と並行して、料理人としての活動も継続。週末はポップアップレストランを開いたり、イベントに出店し、麹や発酵など、日本の伝統食材をとり入れたイタリア郷土料理を提供しています。

「発酵に興味を持つようになったきっかけは、イベントに出店したときに、塩麹のワークショップをしている方に出会ったこと。それまでの僕は、塩麹というものがあることも知らなかった。麹や発酵についての知識はほぼゼロ。でも、塩麹を使わせてもらったときに、直感的に『これはおもしろい』と思いました。『イタリアの郷土料理にも合う』と感じたんです」

この出会い以来、小川さんは発酵について独学し、さまざまな発酵食を仕込んでは試行錯誤を重ねるように。今では、自宅の冷蔵庫やキッチンにいくつもの保存瓶が並ぶのが、小川家の日常です。

イチジクの葉で醸す、香り豊かな自家製納豆

そんな小川さんの“推し”発酵食は、納豆。茨城県出身の小川さんにとって、納豆は幼いころから食卓に並ぶ身近な存在でした。

「僕にとって、納豆はまさにソウルフード。茨城のスーパーには、東京とは比べものにならないくらいたくさんの種類の納豆が並んでいます。東京で給食の仕事を始めて驚いたのが、給食に納豆が出ないことでした」

発酵にのめり込んでいった小川さんが、慣れ親しんだ納豆を作るようになったのは、自然な流れだったのでしょう。とはいえ、その作り方は一般的なやり方とはひと味もふた味も違います。やわらかくゆでた大豆を包むのは、藁(わら)ではなく、なんとイチジクの葉。バニラを思わせる甘い香りがふわりと漂います。

「イチジクの葉は、実家の畑から採ってきたもの。大豆は、茨城県常陸太田市の金砂郷地区で古くから栽培されてきた、在来種の青大豆『青御前』を使っています。うまみと甘みがものすごくて、ゆでているときから香りが段違いなんです」

小川さんがほれ込む大豆、青御前。

この大豆を指でつぶせるくらいやわらかくゆでたら、イチジクの葉で包んで自然発酵させます。葉についている枯草菌(こそうきん)の働きで大豆が発酵し、一晩ほどで納豆特有の粘りが生まれます。

「納豆を作り始めたのは、2年ほど前。ちょうどイチジクの季節で、レストランのシェフたちがイチジクの葉で肉を包んで焼いたり、香りを料理に活かしたりするのを目にしていました。それで、葉についている菌を使えば、納豆も作れるんじゃないか!と思いついたんです。ローズマリーや柑橘類の葉でも作ったことがあり、次は庭で育てているオリーブの葉でも試してみたい。きっとイタリア料理にも自然になじむのではないかと期待しています」

納豆を北イタリアの郷土料理に

上品な甘みの自家製納豆を使って作るのは、小川さんのスペシャリテ「アニョロッティ・デル・プリン」。北イタリア・ピエモンテ州の郷土料理を、納豆でアレンジした一皿です。

アニョロッティ・デル・プリンは、薄く伸ばしたパスタ生地で肉や野菜、ごはんなどの詰め物を包んだ、ラヴィオリの一種。小川さんは詰め物に納豆を加え、セージを香らせたバターと、タレッジョチーズのソースを合わせます。

「タレッジョチーズの香りって、どこか納豆にも似ているんです。詰め物に納豆を入れたら、ソースとも調和するし、肉やチーズだけで作るより、食べ疲れない軽い味わいになるだろうな、と。茨城県出身の僕が作るイタリア料理という意味でも、納豆を使うことにはストーリーがあるのかな、と思っています」

「アニョロッティ・デル・プリン」の作り方

アニョロッティ。ころんとした形がなんとも愛らしい。

アニョロッティは、ピエモンテ州の方言で「ラヴィオリ」、プリンは「つまむ」を意味します。ラヴィオリ生地に肉だねを包み、キュッとつまみながら成形していきます。

  • [材料](2〜3人分)
    ●ラヴィオリ生地
    セモリナ粉(または強力粉)200g
    卵2個
    塩、オリーブオイル各5g
    ●詰め物
    牛肉または豚肉の切り落とし150g(ひき肉でも可)
    納豆100g
    ほうれん草40g
    醤油小さじ1
    とき卵1/2個分
    パルミジャーノ・レッジャーノ20g
    塩、こしょう各適量
    ●バターソース
    バター40g
    セージ2枚
    ●チーズソース
    タレッジョチーズ40g (カマンベールなど白カビ系チーズでも可)
    生クリーム30g
  • [作り方]
    1.ラヴィオリ生地を作る。ボウルに卵を割り入れ、塩とオリーブオイルを加えてすぐにときほぐす。

    2.大きめのボウルにセモリナ粉を入れ、中央をくぼませて①の卵液を注ぎ、粉全体に卵液が行き渡るようにゴムべらで混ぜる。

    土手状にした粉を中央の卵液に少しずつからめるようにして、卵液を全体に行き渡らせる。

    3.ポロポロとしたそぼろ状になったら、指先がボウルの底にあたるようにしながら、手首を回すようにしてぐるぐると撹拌し、さらにこまかいそぼろ状になるまで混ぜる。

    指先を立て、手首のスナップをきかせながら、軽くシャカシャカと回すイメージ。

    4.全体が均一に混ざってきたら、手のひらのつけ根を生地に押しつけるようにしてまとめる。台に移し、手前から奥へと体重をのせて、生地が広がったら折り込み、同じように体重をかけて手前から奥へと伸ばして練る工程を3〜4回繰り返す。

    5.指で押すとすぐに元に戻るくらいの硬さになったら、ぴっちりとラップで包んで30分常温におき、もう一度同じように練ってラップで包み、さらに30分おく。

    寝かせる前の生地は、グルテンがしっかりと形成されていて弾力が強い。

    もう一度練り直し、再び寝かせると、表面がつるんとつややかに。グルテンの働きが落ち着き、指で押しても戻らなくなる。

    6.詰め物を作る。ほうれん草は軽く塩ゆでして水けをしぼり、ざく切りにする。肉は軽く刻む。

    7.フードプロセッサーにすべての材料を入れて撹拌し、なめらかなピューレ状になったら、丸口金をつけたしぼり袋に入れる。

    詰め物の材料をすべてフードプロセッサーに入れて、なめらかに。納豆は、ひき割りでもOK。

    8.アニョロッティを作る。ラヴィオリ生地に打ち粉(分量外)をし、パスタマシン、またはめん棒でごく薄く伸ばす。伸ばしては折り込み、また薄く伸ばすことを何度か繰り返すと、歯切れのいいパスタ生地になる。

    折り込んでは伸ばすことで、プリッとした食感に。

    9.幅8cmほどの帯状にカットし、手前の折り返し分を2cmほどあけて、詰め物を等間隔でしぼり出す。生地が重なる部分にハケで水を薄く塗り、手前の生地をかぶせて二つ折りにする。※幅8cmで、2列のラヴィオリが作れる。

    詰め物をしぼり出したら、手前の生地を折りたたんでかぶせる。

    10.詰め物の周囲を指で押さえて、生地と生地を密着させる。かぶせた生地の合わせ目をギザ刃のパスタカッターで切り離す。

    指先で詰め物の間をキュッとつまんで、くっつける。

    生地の合わせ目をダーッと裁断。残りの生地も同様に、詰め物をしぼり出して、成形する。

    11.手前のつまんだ部分を奥の生地の縁に合わせるようにして、ギザ刃のカッターで一つずつ切り離す。

    切るときに生地が接着され、独特の形に。

    12.鍋に湯を沸かし、1%の塩(分量外)を加えて、⑪のアニョロッティを4〜5分ゆでる。

    13.アニョロッティをゆで始めたら、バターソースを作る。小さめのフライパンにバターとセージを入れて火にかけ、バターがとけたら火を止める。

    バターがぶくぶくと泡立ち、セージの香りが移ったら、火を止める。パスタのゆで汁を少量加えると温度が
    上がりすぎず、焦げてしまうのを防げる。

    14.チーズソースを作る。小さな鍋にタレッジョチーズと生クリームを入れ、チーズがとけるまで弱火でゆっくりと加熱する。
    15.ゆであがったアニョロッティを⑬に加えてからめ、皿に盛り、チーズソースをかける。好みであらびき黒こしょうを振り、セージを飾る。

「レシピはとても長いけれど、もとはイタリアの家庭料理。作り方はそれほど難しくありません。パスタ生地は、細長くカットすればタリアテッレに、薄い板状に切ればラザニアにと、便利に使えますよ! 伸ばしてラップで包み、冷凍することも可能です」

限られた時間のなかで、自分だけの味を育てる

調理師、そして二児の父として、仕事に家事にと忙しい毎日を過ごす小川さん。発酵は、こうしたライフスタイルにおいて、料理の道を探求し続ける支えになっているといいます。

「僕はイタリアに行ったこともないし、レストランでの経験も2年ほど。仕事、家事、育児で、料理に向き合える時間は限られているし、生産者さんとのつながりも、特別な仕入れルートもありません。そんな僕でも、毎日ほんの少し様子を見たり、ほんの少し手入れしたりすることで、深みのある味わいに育てていくことができる。それが発酵食品です。自分が作業できる時間は限られていても、ちゃんと納得のいく料理を作れる。穏やかで心地よい発酵の味わいは、いつか自分の店を持つときにもコンセプトとして大切にしていきたいな、と思っています」

イタリア米で米麹を作ったり、霞ヶ浦の白魚で南イタリアの発酵食品「ローザマリーナ」を仕込んだり。小川さんの発酵研究は、まだまだ続きます。

「実は結構、あまのじゃくなのかも(笑)。人がやっていないことをやってみたいな、と思うんです。僕の料理のベースはイタリア料理なので、もしイタリアに味噌という文化があったらどうなっていたかな?とか、そういう“もしも”の世界を妄想しながら発酵食のアイデアを膨らませていくのもおもしろいんです」

次回の“推し”美食のバトンが渡されるのは、東京・都立大学の「Tsuji-que(ツジケ)」。発酵と薪火を軸に、独自の料理を追求する一軒です。どうぞお楽しみに!

小川航平(おがわこうへい)さん

小川航平(おがわこうへい)さん

小川航平(おがわこうへい)さん

1997年、茨城県生まれ。調理師、イタリア料理人。子どものころからお菓子づくりが大好きだったことから、料理の道へ。調理師専門学校を卒業後、都内のイタリア郷土料理店「タンタローバ」を経て、子どもの誕生を機に学校給食の調理師へ。現在は、給食現場に勤務する傍ら、ポップアップレストラン「オステリア・ソッリーゾ」を主宰する。

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