甘酒の歴史・読み物

甘酒祭りレポートVol.1
富岡八幡宮 祇園舟神事

甘酒祭りレポートVol.1富岡八幡宮 祇園舟神事

800年以上の歴史を持つ横浜の夏の風物詩
「祇園舟」神事

神奈川県横浜市の無形民俗文化財第一号に指定されている、富岡八幡宮の「祇園舟」神事。800年以上の歴史を持つこの神事は、麦麹によって醸された甘酒を使うのが古くからの習わしです。
ここでは、その歴史と甘酒との関係を、お祭りの様子とともにご紹介します。

心身を祓い清め夏を迎える祇園舟神事

祇園舟神事は、神奈川県横浜市金沢区にある富岡八幡宮の例大祭に行われる、青茅(あおかや)で作られた舟に1年分の罪や穢れ(けがれ)を託して沖に流すという祓え(はらえ)の神事です。800年以上前から続く伝統ある行事で、横浜市無形民俗文化財の第一号に指定されています。
なお、祇園舟神事は、京都の祇園祭をはじめ、全国各地で6月に行われる夏越しの祓(なごしのはらえ)の茅の輪くぐり(ちのわくぐり)と同様、心身ともに祓い清めて暑い時期を迎えるための、昔ながらの神事です。
また、麦秋の時期とも重なるため、初穂の麦を海の神にお供えし、五穀豊穣と海の幸の豊漁に感謝する要素も合わせた神事でもあるのです。

青茅で作られた手作りの祇園舟

祇園舟神事に使用する茅舟(祇園舟)は、青茅で作られた70cm×50cm程度の楕円形の茅の輪を舟に仕立てた物で、神事の前日に宮司みずから手作りするのが古くからの習わしです。
近年は、青茅の入手が難しくなっていることから、天然記念物に指定された箱根仙石原湿原植物群落に自生する青茅を、許可を得た上で株分けしてもらい、境内で栽培して使用しています。

青々とした緑がまぶしい祇園舟の上には、お供え物として小麦の粒を敷いた折敷(おしき:縁付きのお盆)に、大麦の粉で作ったしとぎ(だんご)が供えられているほか、舟の周囲には1年(12ヵ月)を表す12本の御幣(ごへい:特殊な断ち方をして折った紙(紙垂)を細長い木に挟んで垂らした物)を並べ立て、さらに中央に大きな御幣が立て掛けられています。

祇園舟神事の歴史と甘酒の関係

富岡八幡宮の創始以来継承されてきたといわれる伝統行事。その歴史について、鎌倉時代から先祖代々宮司を務め、現在27代目の佐野主水宮司に話を伺うと、八幡宮に残る縁起書に次のような記述があると教えてくれました。

「富岡八幡宮は1191年(建久2年)に源頼朝公が当郷鎮護のために摂津・西宮の恵比寿様をお祀りしたのが始まりです。その後1227年(安貞元年)に八幡大神を併せ祀り、社名も八幡宮と改めました。そして古くから当宮に残る縁起書には、八幡様を祀るきっかけとなった出来事が残されているのです。

『ある日、集落の一軒の家に托鉢の僧侶が訪ねてきたものの、その家には食糧がありませんでした。そこで家主は、差し上げる食べ物はありませんが、今日はお祭りなのでと、麦酒を差し上げたそうです。すると僧侶はその麦酒を茅の葉ですすり飲むと、実は我は八幡大神である。今日から我を祀れば、村人を守り、邪悪を退けようと言い残し、こつ然と消えたのです』。

この話が、本宮で八幡様をお祀りするようになったいわれですが、注目すべきはそこで「麦酒」という言葉が登場すること。八幡様を祀る以前より、祇園舟神事が行われていたのではないかと推測することができるのです」。

富岡八幡宮のある金沢地区は、古くから漁師町として栄え、山に囲まれた地形のため水田面積が限られ、田畑では麦を作る人が多かったそうです。祇園舟神事に麦を使ったお供え物を用いるのは、昔ながらの風習が今に受け継がれているといえます。

いよいよ例大祭がスタート!

7月某日の神事当日の朝、境内には白い装束に身を包んだ30人ほどの漕手を務める祇園舟保存会会員の姿がありました。
その手には、「甘藻(あまも)」と呼ばれる海草が握られています。各々がみずから海で穫ってくるもので、これは神事に携わるにあたって禊の証となります。

すべての準備が整った午前10時、社殿にて例大祭の式典にあたる大祭式が始まりました。大祭式では、茅舟が神前に備えられ、お祓いを受けます。およそ1時間の大祭式終了後、通常であれば船溜まりの浜に移動して浜降神事が行われるのですが、この日はあいにくの雨のため、本殿の前で行われました。

ここで宮司は、祇園舟の上にある、お供え物である麦のだんごに麦麹で醸した甘酒をかけ、祝詞を奏上します(現在では麦麹の入手が難しいため米麹の甘酒を使用。代々伝承された製法で宮司の奥様が仕込んだ物)。一連のお祓いの後、祇園舟は若衆たちの手によって、船溜りの浜まで運ばれていきます。

祇園舟を載せる2艘の和船「八幡丸」と「弥栄丸」

浜へ到着すると、岸辺に用意されていたのは「八幡丸」と「弥栄丸」という2艘の和船です。これらは、2016年に80年ぶりに新調され、旧船と同じ「五丁櫓」と呼ばれる構造を再現し、山口県祝島の船大工の手によって作られました。
ここに祇園舟を載せ、雅楽の音色が鳴り響く中、沖に向けて一行は出航します。

和船が沖合へ到着すると、祇園舟は海へと放されます。沖に流され始めると、ここからが祇園舟神事のクライマックスです。祇園舟に託された1年分の罪穢から逃れるべく、八幡丸と弥栄丸の2艘は、競漕しながら岸を目指すのです。

大きな掛け声に合わせて、若衆たちが和船を漕ぐ姿は壮観の一言。抜きつ抜かれつの好勝負が繰り広げられ、大勢の観客が見守る中、今年は最終的に八幡丸が僅差で先に岸へとたどり着きました。
終了後はお互いの健闘を讃え合う漕手たち。最後は全員で輪になり、三本締めで今年の祇園舟神事を締めくくりました。


開催日:
毎年7月15日に近い日曜日

開催場所:
富岡八幡宮(神奈川県横浜市金沢区富岡東4-5-41)

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